WHO(世界保健機関)が、ハム、ベーコン、ソーセージなどの加工肉を摂取すると結腸がん、直腸がんといった大腸癌の発症率を上げているという報告を出しました。the Lancet Oncologyに詳細を発表しているはずですが、僕には読めませんでしたので細かいことはわかりません。

ただ、過去に発表された研究結果を700篇以上検討した結果ですので、信頼性は最上級に分類されるべきものです。

加工肉が癌の危険を増す

加工肉によって癌の危険が増すということ自体は、以前から想定されていたことです。今回ニュースになった理由は、WHOの委員会で700篇もの論文を検討した結果、間違いなく癌の危険を増すと考えられると発表し、タバコと同じく「発がん性カテゴリー」でGroup1に分類したからです。

 世界のニュース

世界中で話題になっているようです。

WHOの発表

WHOの発表資料(いずれもPDF)は、

の二つで、論文としても発表されています。

Carcinogenicity of consumption of red and processed meat(the Lancet Oncology)Published Online: 26 October 2015

  • DOI http://dx.doi.org/10.1016/S1470-2045(15)00444-1 (このアドレスでアクセスできるはずが、エラーでつながりません)

オンラインで読むことが出来るサブスクリプションが大学にあるはずなのですが、この論文には残念ながらたどり着けませんでした。 

加工肉って何?

WHOの発表中で、「加工肉」に分類されるものは

  • 塩漬け肉(salted, cured)
  • 発酵肉(fermented)
  • 燻製肉(smoked)
  • その他味や保存性を高める処理をしたもの

と書かれています。主に豚肉、牛肉製品が多かったものの、鶏肉なども含まれるようです。たぶん、魚は含まれないのかなと思います。

ということで、「ベーコン」、「ハム」、「ソーセージ」などだけではなく、チャーシューや肉の佃煮なども原理的には含まれるはずです。ただ、検討された700の試験結果に含まれていたのかはわかりません。(=他の製法の製品にまで結果を拡げて解釈できるかは誰にもわからないため)

また、最近流行っているらしい「熟成肉」や、肉のミンチ、サシを入れる加工をした霜降り加工肉は、どうなのかわかりません。

WHOの出した結果

WHOの発表は、

  • 加工肉を一日50g消費するごとに大腸がん(直腸がん、結腸がん)の危険を18%増す

というものです。このような言い方をする場合、

  • 50gなら18%増加
  • 100gなら39%増加(1.18×1.18)
  • 200gなら94%増加

を意味しています。逆に25gの場合には8.6%増加、10gだと3.4%増加となります。

データを見るときの注意点

発表された論文が読めなかったので確かではありませんが、WHOの出した数字「18%」には意味がない可能性があります。数字だけを見て、自分は8%だからと安心できるというようなものではありません。

理由は、検討された700の研究結果は少しずつ研究方法が違って、例えば

  • ある時点で加工肉の消費量をアンケートして、何年か先のがん発症率をみた(下の国立がんセンターの結果はこのタイプです)
  • ガンになった人・ならなかった人に過去の加工肉を食べた量をアンケートして、推定した
  • 肉の消費量を毎年聞き取りして、何年か先のがん発症率をみた

など違ったものを集めているはずです。こういったものを完璧にまとめることは出来ないのと、研究結果はあくまで過去のものなので生活環境が変わった現代でそのまま通用するかというとわかりません。ただ、WHOがたくさんの研究結果を総合した結果、発がん性がある、と判断したという点が重要です。

同時に赤身肉とガンの関係も検討していて、

  • 赤身肉を一日100g消費するごとに大腸がんの危険は17%増す

という結果が出ています。が、赤身肉の17%は確かとはいえないと結論されています。(発がん性があると思われる、というGroup 2Aに分類されています)

国立がんセンターの見解

WHOの発表に対して国立がんセンターの見解が発表されています。

 国立がん研究センターは29日、赤肉や加工肉には大腸がんなどの発がん性があると国際がん研究機関(IARC)が発表したことについて、「日本人の平均的な摂取の範囲であれば影響はないか、あっても小さい」との見解を公表した。
...中略...
見解は同センターの研究グループが国内約8万人を対象に、赤肉・加工肉の摂取量と大腸がんのリスクについて追跡調査し、2011年に発表した結果に基づく。
 13年の国民健康・栄養調査によると、日本人の摂取量は1日当たり赤肉50グラム、加工肉13グラムで、同センターは「世界的にみて最も摂取量の低い国の一つ」と説明。
出典:『「日本人は影響小さい」=赤肉・加工肉の発がん性-国立センター』(時事コム)

日本の国立機関は、この手の危険が発表されるといつも「日本人には影響はないか、小さい」という発表をします。少し前のトランス脂肪酸のとき(記事:『FDAがトランス脂肪酸排除を決定、2018年6月までに』)もそうでした。僕はこの見解に対しては疑問があります。国立がんセンターが「普通」と定義している人にとっては影響が小さいというのは確かだと思いますが、この発表では「多く食べている人が摂取量を減らす」意欲を削いでしまうと思うのです。

国立がんセンターの研究

国立がんセンターのウェブサイト上に2011年に発表した結果について解説したページがあります。一部引用すると、

今回の研究では、追跡開始時におこなった食習慣についての詳しいアンケート調査の結果を用いて、肉類の総量や赤肉(牛・豚)・加工肉(ハム・ソーセージ等)の1日当たりの摂取量を少ない順に5グループに分け、その後に生じた結腸・直腸がんの発生率を比べました。その結果、赤肉の摂取量が多いグループで女性の結腸がんのリスクが高くなり、肉類全体の摂取量が多いグループで男性の結腸がんリスクが高くなりました。また、男女ともにおいて加工肉摂取による結腸・直腸がんの統計的に有意な結腸・直腸がんのリスク上昇は見られませんでした。
...中略...

加工肉(ハム・ソーセージなど)摂取、日本人の一般的なレベルなら大腸がんリスクとならない

男性・女性のいずれにおいても、加工肉摂取による結腸・直腸がんのリスク上昇は見られませんでした(図1)。ただし、加工肉摂取量をもう少し細かく10グループに分けたところ、男性において最も摂取量の多い群で、結腸がんリスクの上昇が見られました(摂取量の少ない下位10%の群と比べ、上位10%の群では発生率が1.37倍)。つまり、日本人が一般的に食べるレベルでは、はっきりとしたリスクにはならないけれども、通常よりもはるかに多量に摂取する一部の男性では、結腸がん発生リスクを上げる可能性は否定できません。
出典:『赤肉・加工肉摂取量と大腸がん罹患リスクについて』(国立がんセンター)

研究結果が発表されているのは、Asia Pac J Clin Nutr.という台湾の雑誌で、雑誌の影響力を測るインパクトファクターは2011年時点で1.13です。10万人を10年調査した結果なのでもう少し影響力が高い雑誌に載っていてもおかしくないのですが、結果があまり人目を引かないのか、研究方法の問題なのか。WHOの結果が載っているthe Lancet Oncologyは2011年22.58、2014年24.69です。

論文要約は出版社のページかアメリカ保健省のページ、本文もPDFで公開『Red meat intake may increase the risk of colon cancer in Japanese, a population with relatively low red meat consumption』されています。

研究の限界

国立がんセンターの研究の限界点としては、結腸癌の危険上昇が見られた男性で、肉の消費量とがんになる前に大腸検査を受けた割合が負の相関があったりすることです。(出ている結果は、肉の消費量で分けた分類で、加工肉の消費量ではありません。加工肉消費上位10%のデータは、論文には載せられていません。)

結果の解釈

論文に載っていないとは言え、消費量上位10%の男性で1.37倍の発生率が出ていたというデータはあるわけです。これを解釈して「日本人の平均的な摂取量であれば影響はないか、あっても小さい」というのは正しい解釈ではありますが、10%に1.37倍というデータを半ば意図的に無視した見解だと思います。

研究で検討された加工肉の消費量は、肉の消費量でグループ化されていてわかりません。ウェブサイトのデータを信じると、上位20%の消費量は男性19g、女性17gとWHOで検討された量よりもだいぶ少なく、上位20%グループの消費量をWHOの式に当てはめても6%ちょっとの増加です。

6%程度だったら確かに影響は少ないのですが、上位10%で37%上昇というのは見方によってはかなり大きい違いです。論文に載っていないデータなので、データの出し方等はなぞですが、

  • 大腸がんの発症数は男性2に対して女性1
  • 男性の加工肉消費上位10%は37%発症率が高い

を前提とすれば、国立がんセンター発表の2015年予測データでは2015年の大腸がん新規診断数は13万5千名(135,800名)と予測されています。例によって乱暴ですが計算すると、毎年3230人の日本人が加工肉の食べすぎで大腸がんを発症している、というデータを国立がんセンターが出しているということになります。

年間のがん発症数98万人からすると0.3%ですので大勢への影響はありません。また、加工肉ではなくて養殖魚を食べるのが良いかというと違います。

日本人の80%以上、週に100g以下しか加工肉をとらない人にとっては、摂取量を3分の1にしたところでほとんどリスクは変わらないので、国立がんセンターの発表はある意味で正しいと思います。でも、国立がんセンターの解析結果によると毎年3000人が加工肉によるリスク上昇で大腸がんを起こしていそうだというのも事実です。声明を出すなら、加工肉を大量摂取する人に摂取量を減らすように努力する意欲を与えるものでないと国立がんセンターの調査の意味がないと思います。

WHOが再度声明「食べぬよう要請するものではない」

WHOによる加工肉が発ガン物質、赤肉も発がん性疑いという声明は大きな誤論を呼びました。あまりにも大きな話題になったためか、WHOは食べないように要請するものではなく癌を避けるために摂取を控えめにするように、という声明を追加で出しました。

知っていれば選択できる

日本人の大腸がん発症数は上がってきています。日系人との比較して、以前は日本人のほうが低かったものが最近は同等になっているそうです。(参考:部位別がんの統計情報』国立がん研究センターがん対策情報センター)

この手のデータを見て、それでも食べたいと思うか、それなら辞めようかと思うか、どちらでも良いと思います。僕は、このデータを見て加工肉をたくさん食べ続ける食生活を送りたいかと聞かれたら止めておきますと答えますし、どちらが良いと思う?と聞かれたら「止めておいたら?」と答えます。

ものすごく大きな違いではありません。

このページを読んで下さった方がどう思われるかはわかりませんが、WHOのデータは確からしいですから、一人ひとりがどちらを選ぶかだと思います。

日本ではウインナーの売上げ2割減

丸大食品ではWHOの発表後数日間、ウインナーソーセージの売上げが2割減少したそうです。

 世界保健機関(WHO)が発表した加工肉とがんのリスクの研究について、丸大食品は10日、発表直後の数日間にウィンナーの店舗販売が通常より2割ほど落ちたと明らかにした。販売は回復傾向にあるが、百済徳男社長は「想像以上に落ちている」と述べた。
出典:『ウィンナー販売が2割減…WHO「リスク」発表で影響』(朝日新聞デジタル via Yahoo!ニュース)

癌のリスクを信じて、減らすことを決めるなら数日間だけの現象ではいけないと思うのですが・・・。

イギリス人教授の金言

ケンブリッジ大学のサー・ディヴィッド・スピルゲルハルター教授は、この問題に英国式なユーモアで応えた。
 「英国では一〇〇人に約六人が大腸がんになる。全員が終生、一日五〇グラムぶんのベーコンを追加摂取し続けた場合、大腸がんにかかる割合は十八%上昇する。つまり、一生ずっとベーコンを食べ続ける一〇〇人の中で、大腸がんになる人が六人から七人になるわけだ」
出典:『お騒がせ「ハムやベーコンに発がん性」発表の勇み足』(ダイアモンド・オンライン)

が、ダイアモンド・オンラインに出ていた、イギリスの教授の発言はまさに的を得ていると思います。ベーコン摂取で大腸がんを発症してしまう100人に一人になるのを避けるために、ベーコンを食べても癌にならない93人になることを選ぶかどうか、です。

繰り返しになりますが、消費者が自分で考えて選ぶことができる材料を提供したWHOの発表は意味が大きいものだと思います。

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