名古屋大学病院で、癌がCT検査で写っていたにもかかわらず3年間見逃され、結果患者が死亡する医療ミスがあったと報告されました。遺族に賠償金を支払うということですが、詳細はわかりません。

名古屋大学病院のガン見逃し

名古屋大付属病院(名古屋市)は21日、別の病院で腎臓がんの手術を受け、経過観察で定期検査していた患者の肺がんの兆候を、約3年半にわたって見逃していたと発表した。患者は2012年6月に重度のがんと診断され、約2年後に死亡した。
 外部の専門家を交えた名大病院の調査委員会は「初期の段階で発見できた」と指摘。病院は医療ミスを認め、遺族に賠償する方針を示した。
...中略...
 報告書は「遅くとも09年5月に異常を認識できたと考えられ、当時治療していれば根治できた」と指摘した。
出典:『肺がん兆候、3年半見逃す=患者死亡で報告書-名大病院』時事ドットコム

医療ミス、もしくは医療過誤

医療ミス、あるいは医療過誤といわれる用語は好きではありません。好きな人などそうそういる訳もないのですが、一時期ほどではないにしても、「ミス」というのは酷だと思う事例が良く医療ミスだと叩かれていることがあるからです。

ですが、今回の名古屋大学病院の件は紛れもなく「医療ミス」「医療過誤」に値すると思います。

 似たような事例は?

今回の名古屋大学病院の見逃し事例のようなものは、どのくらいあるのでしょうか?

似て非なる例

インターネット上で「ガン 見逃し」で検索してみると、たくさんヒットしますが、それらは今回の事例とは次元が違うものです。たとえば、

  • タレントの北斗晶さんの乳がんが検診で見つからなかったのは見逃しか?
  • 通院していたのに、ガンを見つけてもらえなかった
  • 見逃しやすいガンの兆候は*+*+*++。。。

といった事例が出てきます。これらの例では、「現在の技術では見つけられないもの」だったり、「詳しい検査をするに至らなかった」ために見つからなかったものです。名古屋大学の見逃し事例では、CT検査で異常が検出されていて、なおかつ、時とともに大きくなっていたのに見つけられなかった点で異なります。

一回の検査だけでは、古い病変(陳旧性炎症所見)と区別がつかないことがあるので、名古屋大学の報告書が書いているように遅くとも2回目の検査で見つけるべきだったと言うのはその通りだと思います。

同様の事例

僕のインターネット検索では見つかりませんでした。

検索では見つかりませんでしたが、下手をすると同じようになりそうな例は見たことがありますし、残念ながらどこでも起こりうると思います。

名古屋大学病院の調査報告

プレスリリース

 経緯

外部へ向けた、調査報告書の概要」と院内への通知文」が公開されています。

プレスリリースと併せると、

  • 2012年6月、進行した肺がんを発見
  • 2014年3月、患者が死亡
  • 2014年9月、第一回調査委員会
  • 2014年11月、第二回調査委員会
  • 2015年3月、外部の調査委員と検討
  • 2015年10月、報告書が完成
  • 2015年12月15日、遺族への謝罪
  • 2015年12月21日、事例の公表・賠償方針の発表

だそうです。患者の死亡から謝罪するまでに19ヶ月掛かっています。この手の報告として早いのか遅いのか判らないのですが、感覚としては遅すぎる気がします。もっと言うと、進行した肺がんを見つけてから「遺族への謝罪」までに42月掛かっています。(最初の謝罪が2015年12月だったのかは言及されていません)

調査委員会は、専属ではないでしょうから仕方ないとは言っても、1年以上掛かるのはちょっと、という気がしてなりません。

わからない点

発表だけからはわからないけれど気になるところは、

  • 裁判になっているのか?
  • 2012年時点で謝罪なり、説明がされていたのか?

の2つです。一つ目が特に気になる点です。

医療ミスと賠償

なぜ裁判になっているのかが気になっているかと言うと、「裁判になる、もしくはなりそうでないと対応しない」病院があるからです。(今もそうかは知りません)

患者への賠償、対応するための弁護士費用や会見費用、そういったものを出すのに極端に消極的な病院があります。具体的には、市立病院や県立病院などの公立病院です。理由は、予算をつけないと費用が出せず、さらに予算をつけるためには議会に諮って審議されなくてはいけないからです。

そこで詳細が公開されますし、オール与党ということもないので議会で追求されることになります。そのために初動が遅くなったり、大きな問題になるまで対応されないという、皆が不幸になるという事態に陥りやすいのです。

名古屋大学病院は、国立大学法人という形で独立行政法人化されていますから、早い時点から対応していたのかもしれませんし、そうでなかったのかもしれません。公立病院ではないにしても、国公立大学の附属病院で(遅いとしても)対応されているのは、時代の変化を感じます。(2000年ごろからの医療訴訟の増加で、病院の対応も少しずつ変わっています。)

教訓

名古屋大学の通知文と報告書概要には、今後に生かせる教訓がいくつかあります。

  1. コピー&ペーストを避ける
  2. 仕事のキャパシティを超えてはいけない
  3. 検査結果を見るときには先入観を捨てる

最初のコピー&ペースト以外は、当然のことではありますが、実地の病院で行うのはかなり大変です。

コピー&ペーストは、STAP細胞の博士論文のコピペだったり、専門医・指定医レポートの論述問題のコピペだったりで問題になりましたが、医療記録もコピペされます。問題ないこともあるのですが、質の低下は否めません。

今回の件の場合は、おそらく、

  • 依頼書:「2007年に腎臓ガンの手術、定期フォロー」
  • 読影レポート:「前回(2009年)の検査と比較します。・・・・・・著変ありません。」

のようなやり取りがあったと思われるので、依頼書が毎回コピペで同じものだった(に違いない)ことと、レポートが前回(・・・)の部分を変えて大体コピペだった(かもしれない)ことに関して書かれていると思います。

電子カルテとコピペ

世の中の病院は電子カルテが普及しました。厚生労働省の主導によるものです。

  • どこからでも読むことができる
  • 多数の人が読むことができる
  • 「字が読めない」という事態が激減

というメリットがありますが、読みやすさ、探しやすさという点で圧倒的なデメリットがあります。(今までに読みやすくて探しやすい電子カルテに出会ったことが残念ながらありません)そして、基幹システムなので一旦採用すると乗り換えるのが異常に困難です。

昔の上司が「紙カルテは、診察したときの状態が頭によみがえるけれど、電子カルテでは思い出せない」というようなことを言っていました。

電子カルテでは文字の字面を検索することは簡単ですが、どこが大事だったのか(文字の大きさを変えることはできても)一覧性を保ちながら伝えることができません。で、僕は大体患者近況のようなものをカルテ内に作って、毎回コピペしながら書き足していき、どこかでまとめてサマリーにしていました。

が、時に書き足すのを忘れたり、間違いがあるとそれがそのままコピーされていったりもします。紙カルテでも起こりうるのですが、電子カルテではより深刻になりやすいです。コピペだけで記述を済ます医師がいたりすると、他の人との連携にも支障をきたします。

仕事のキャパシティ

医者の仕事は、「自分はこれだけの仕事しかしない」と言うことが難しい仕事です。言って、実行することはできますが、その分の仕事を他の誰かに押し付けているだけで、解決してないことがほとんどです。

今回の事例の名古屋大学病院では、検査結果を報告する医師のキャパシティを超えていた可能性が指摘されています。

本事例では放射線科チームによる異常所見の認識に遅れが見て取れる。しかし,その背景には重要な組織的要因も存在している。名大病院は診療報酬における画像診断管理加算につき画像診断管理加算 2 の施設として届出を行っている。画像診断管理加算 2 は,施設基準として,画像診断を専ら担当する常勤の医師が当該保険医療機関において実施されるすべての核医学診断,CT 撮影及び MRI 撮影について画像情報の管理を行うことを求めている。このこともあり,名大病院の放射線科医は,医師一人当たりにつき国立大学病院全国平均の約 1.5 倍の件数の読影を行っている。これは確実な読影を行うのに適した環境とはいえない。
出典:『調査報告書概要』(名古屋大学医学部附属病院)リンクは前出

他の国立大学病院と比べて1.5倍の読影件数だったそうです。それを受けて「通知文」の

  • 主治医は,患者の診断・治療・研究にとって画像検査が必要か否かを熟慮し,必要性の低い画像検査を極力減らすこと
  • 画像検査のオーダーにあたっては,撮影部位を適切な範囲に限ったり,妥当な検査間隔を保つこと

出典:『「腎癌術後フォロー中,原発性肺癌進行の発見が遅れた事例」の事故調査報告書を受けて』(名古屋大学医学部附属病院)リンクは前出「通知文」、一部改変しています。

が出てきているようです。が、このような通知で減るかというと難しいのではないでしょうか?

病院によりますが、半年先まで予約がとりにくくなっているところもあったので、今すぐではなくてもいいけれど、できれば数日以内には見たいという検査を出すのに、あちこち電話して走り回っては嫌味を言われたり・・・・、いい思い出がありません。先日、ストレスチェック・テストを見たときに項目があったように、急に割り込んでくる仕事はストレスが多く質が低下しがちです。

この名古屋大学の事例などから、少しでもオーバーワークを減らす方向に進んだらなあと思います。

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