マハトマ・ガンジー像

2012年2月26日に発生したジマーマン事件以来、米国では人種差別の事件が多くクローズアップされ、人種差別に抗議する運動が活発になっています。2015年もサウスカロライナ州ノースチャールストンオクラホマ州オクラホマ大学メリーランド州ボルチモアサウスカロライナ州チャールストンなどで黒人差別事件が大きな話題を呼びました。

2014年8月に全米で暴動を引き起こしたマイケル・ブラウン射殺事件があったファーガソンと同じミズーリ州にあるミズーリ大学コロンビア校で、大学内での人種差別に反対する運動が起こり、大学トップが辞任する事態になりました。

大学トップの辞任を求める抗議運動

ミズーリ州コロンビアのミズーリ大学コロンビア校で2015年11月2日、黒人の大学院生ジョナサン・バトラー(Jonathan Butler)さんが大学キャンパス内での人種差別行為に対して不作為を貫く大学トップに辞任を求め、ハンガーストライキ(要求が通るまで食事を取らないストライキ)を始めました。

That episode was a turning point for Butler, he has said. In response to that experience, and to what activists said was inadequate followup action from Wolfe, Butler began researching his hunger strike.
He consulted his doctor, prayed with his pastor and updated his will. And on the morning of Nov. 2 he announced he would not eat another thing until Wolfe was fired or left office.
出典:『Jonathan Butler: How a Grad Student's Hunger Strike Toppled a University President』(NBC News)

ハンガーストライキは、インド独立の父、マハトマ・ガンディーが非暴力・不服従を貫くための方法として用いたことで有名です。ハンガーストライキが始まったのは11月2日月曜日で、11月7日土曜日に大学のアメリカン・フットボールチームの黒人選手が、抗議に賛同して辞任が成るまで試合をボイコットすることを発表しました。

週明けの11月9日月曜日には、校内の広場を埋め尽くす抗議活動に発展しました。この抗議活動を受けて大学トップの2人が辞任を表明し、とりあえず収束しています。抗議活動が短かったこともあるのか、公になっている限りでは暴力的な抗議は行われなかったようです。

辞任したのは、ミズーリ大学コロンビア校の学長(Chancellor)R. Bowen Loftin氏と、ミズーリ大学ネットワーク(コロンビア校を含めた4つの大学の集合体)の総長(President)Tim Wolfe氏の二人です。

日本語ニュース(CNN.co.jp)

ミズーリ州コロンビア

ミズーリ州は西部開拓時代に西部への玄関口として栄えた州です。ミズーリ州コロンビア市は犯罪が多い都市として有名なセント・ルイス市から車で2時間ほど西へ行った場所にあり、さらに2時間ほど西へ行くとカンザス州とミズーリ州にまたがり、都市圏人口200万人を誇る大都市のカンザスシティがあります。

ミズーリ州コロンビアの人口は9万人で、ミズーリ州では5番目の規模の都市ではありますが小都市です。コロンビアには、ミズーリ州コロンビア校と2つのリベラル・アーツ・カレッジがあり、ミズーリ州コロンビア校は職員16000人、学生35000人を擁する大学(2012年データ、ウィキペディアより)で、2つのリベラル・アーツ・カレッジはコロンビア・カレッジが学生4500名あまり、ステファンズ・カレッジが学生1000名足らず(教職員数はわかりません)です。

大学関係者だけで55000人以上になる大学の町です。大学の町は保守的な地域にあっても、そこだけリベラルな雰囲気を放っていますが、コロンビアも「自由の気風が強い」(ウィキペディアより)そうです。

ミズーリ大学コロンビア校

ミズーリ大学コロンビア校(University of Missouri-Columbia)は、ミズーリ大学ネットワークの4校の中でトップ校で、今は正式名称が変更されて単にミズーリ大学(University of Missouri)になっています。

大学全体でのランキングはそれほど高くありませんが、1839年に創立された、アメリカでは歴史のある大学のひとつです。いくつか有名な学部があるようです。

ジャーナリズム、農学、法学、獣医学の分野で著名。バイオテクノロジー分野にもかなりの投資をしている。
...中略...
公立校で6校しかない、法学・医学・獣医学の大学院を持つ大学の一つである。
また、世界で初めてのジャーナリズムスクールがあり、NBC/CW系列のKOMU-TVというテレビ局を運営している。
出典:『ミズーリ大学コロンビア校』(ウィキペディア 最終更新 2015/2/5 04:04)

卒業生の中には「おっ」と思う人が何人かいます。

  • ブラッド・ピット(Brad Pitt):俳優
  • サム・ウォルトン(Sam Walton):世界最大の小売業者、ウォルマートの創始者
  • ケネス・レイ(Kenneth Kay):石油のニューメジャーの一角、エンロンの創始者兼最高経営責任者
  • クリス・クーパー(Chris Cooper):俳優

ハンガーストライキの経過

今回の抗議活動の中心になり、ハンガーストライキを行った大学院生のJonathan Butler氏は2014年夏にあったミズーリ州ファーガソンのマイケル・ブラウンさん射殺事件の抗議活動に参加したことで、ミズーリ大学コロンビア校での人種差別への抗議活動に身を投じるようになったそうです。(参考:上記のNBC News)

2015年9月前後に、ミズーリ大学コロンビア校内でいくつかの人種差別事件があり、それに対応する形で過去のシンボリックな事件から名前を取った「Concerned Student 1950」運動が始まりました。

大学当局が対応しなかったために10月に行われた大学のパレードで車を妨害して訴えたものの、それもで十分な対応がされなかったようです。これに対して、Jonathan Bultler氏が大学当局に「トップが辞任するまでハンガーストライキをする」と書面を送った上で11月2日からハンガーストライキに入っていました。

大学当局がこの時点で何か対応を取った形跡はありません。11月7日土曜日に、ミズーリ大学コロンビア校のアメリカンフットボールチームに所属する黒人選手30名超が「Jonathan Butlerのハンガーストライキが終わるまですべての試合をボイコットする」と宣言し、チームのヘッドコーチも賛同したことで事態が急転し、週明けの11月9日に大学トップ二人が突然辞職を発表しました。

原因になった人種差別事件

抗議活動の原因になったのは大きな事件ではありませんが、ニュース記事に出ている範囲で直接の原因になった事件は2つです。

  1. 大学の行事で、有名卒業生が黒人卒業生に対して人種差別発言を行ったのに対して、大学当局が何も行動を起こさなかった
  2. 学生寮のトイレの壁と床に、糞便で作った卍(おそらく逆卍でナチスドイツのシンボル)が描かれていた

逆卍は、ナチスドイツのシンボルですが、アメリカではネオナチグループだけでなく、白人至上主義者結社のKKKが好んで使っています。(参考:Why does the KKK encourage using Nazi symbols?』answers.com)

糞便卍事件は、虚偽ではないかとする意見(Was The Poop Swastika Incident At Mizzou A Giant Hoax?』the Federalist)もあるようですが、the Federalistが保守層に偏ったメディアで、警察のレポートに書かれているらしいという意見(Was The Missouri University Poop Swastika A Hoax? Here’s What The Police Report Says』INQUISITR)があります。

説得力があるのは、「糞便卍事件があった」という方だと思います。

 イェール大学へ波及

アイビーリーグの名門大学、イェール大学でも人種差別を巡る議論が活発化したそうです。イェール大学の学生寮「シグマ・アルファ・イプシロン」で「白人女学生専用」有色人種お断りのパーティーが開かれた件について、人種差別だという話が出ています。(この件についても、そんなパーティーはなかったという意見もありますが。。)

シグマ・アルファ・イプシロンといえば、2015年に世間を騒がせた『オクラホマの合唱事件、』の舞台になった学生寮と同じ組織です。(名前が同じ寮同士で横のゆるいつながりがある)

アメリカの学生寮はこういう話ばかりなのでしょうか?

 ミズーリ大学にKKK侵入という警告

大学の学長・総長が辞任した後の11月11日、ミズーリ大学コロンビア校の学生組織のプレジデントがフェイスブックに「学生は気をつけろ。寮の窓から離れるように。学内でKKKが見つかった。俺は今大学警察、州警察、州軍と一緒に対応中」というようなメッセージを出したそうです。

バージニア州で白人史上主義者が爆弾テロを計画した容疑で逮捕されたばかりですので、さらに恐怖を煽る話だったのですが、この警告は間違いだと警察が否定しています。(参考:『University of Missouri students report threats; police quell KKK rumors』CNN.com)

米バージニア州で10日までに、黒人教会やユダヤ教礼拝所の爆破を計画したとされる白人至上主義の男ら3人が逮捕された。
出典:『爆破テロ計画の疑いで白人至上主義者ら3人を逮捕 米』(CNN.co.jp)

大学スポーツの影響力

アメリカでは大学スポーツの人気が非常に高いです。大学によると思いますが、アメリカンフットボールとバスケットボールの盛り上がりはすさまじいものがあります。日本の甲子園も盛り上がりますがもう少し長期間にわたって試合が続きます。

日本でもある程度そういう面があるかもしれませんが、アメリカの大学スポーツは完全に収益部門です。試合の放映権料やグッズ、試合自体の入場料も(人気の試合では)かなり高額になります。スポーツ推薦で大学に入学する学生も多く、スポーツをしている限り大学から優遇されます。(限度は厳密に決められています)

僕の大学でも大して強くもないのに、アメリカンフットボールの専用競技場があり、年に何試合か開催するために24時間365日照明が付いていますし、試合がある日は平日でも大学の駐車場が閉鎖されて観客用にされてしまうため有給を消化するしかない、という、「大学って何なんだろう?」と思うような本末転倒なことが普通に行われます。ホームゲームがあるときには完全にお祭り騒ぎです。

学生が何十人抗議しようと意に介さなかった大学トップが、アメリカンフットボールチームがボイコットすると宣言した途端に辞任に追い込まれたのは、このような事情が関係していると思います。

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