Yahooニュースを見ていたら、「ほぼ完全な人間の脳、実験室で培養成功 米大学研究」などというヘッドラインニュースが出ていました。本当だったらすごいことです。

脳の培養成功?

AFP通信が元記事で、

脳の成熟度は、妊娠5週の胎児に相当するという。「それは発生中の脳のように見えるだけでなく、多様な細胞型、1個の脳に匹敵するほぼ全ての遺伝子の発現もみられる」と同教授は述べている。
 オハイオ州立大によると、シャーレの中でエンドウ豆ほどの大きさになったこの脳には、多種多様な細胞や脳と脊髄の主要部位の全てが含まれているが、脈管系は存在しないという。人間の皮膚細胞から培養されたこの小さな脳については、これまでに培養されたもののなかで、最も完全型に近い脳だと主張されている。
 重大な研究成果は、査読学術誌に論文が投稿され、主張の内容に対して独立した評価がなされてから公表されるのが通例となっているが、アナンド教授は、18日に米フロリダ(Florida)州で開催された軍の保健関連イベントで、今回の研究成果を発表した。
出典:上記AFP記事

この記事から分かりそうなことは、

  • たぶんIPS細胞から作った
  • 論文発表されていない
  • 妊娠5週胎児に相当する
  • 脈管系(血管、リンパ管)が存在しない(≒神経細胞とその仲間たちのみ)
  • ベンチャーを既に立ち上げている

の5つ(かもっとあるかもしれません)です。

肯定的に見ると・・・

すごい発見だと思います。IPS細胞を使った他の研究にもより力が入ることでしょう。記事にあるとおり、毒性試験やらなにやら夢は膨らみそうです。

論文発表していないのも、いち早く資金を集めて実用化するためかもしれません。

批判的に見ると・・・

査読論文に発表されていません。査読論文ではないということは、誰の目からも研究結果がチェックされていないということです。5週と発表しているというのは、胎児5週以上にはならなかったのでしょう。どれだけの期間をかけて、5週相当になったのかかかれていないので分かりません。

全体像は載っていますが、細胞の詳細や「脳」といえる根拠はほとんど出ていません。

結論としては

本当なのかを含めてさっぱり分かりません。ただ、論文発表してないで会社を立ち上げています。論文発表するとある程度作成方法を発表しなくてはいけなくなるので、論文発表はしないで技術をしばらく独占し、儲けを狙っているのかもしれませんね。

先行研究があれば良いのですが、このグループから類似論文はでていないさそうです。

 

オハイオ州立大学

オハイオ州の公立大学です。州立など公立大学のほとんどは、University of Ohio(この名前の大学は存在しません)というように、University(総合大学)、of(の)、Ohio(地名)の形ですが、オハイオ州の公立大学は、

  • Ohio University
  • Ohio State University

と紛らわしい名前です。今回の「オハイオ州立大学」はOhio State Universityのほうです。USNewsの大学ランキング(参考:『アメリカの大学の学費・奨学金、大学ランキングについて』)では、Ohio State UniversityのほうがOhio Universityより高ランクを獲得しているようです。

薬理学教室

今回の発表を行ったのは、

Professor Rene Anand, PhD
Dapartment of Pharmacology
the Ohio State University College of Medicine

という教室です。日本語にすると、「オハイオ州立大学医学部薬理学教室」です。ニュースでも

脳や神経系の疾患に対する治療法を開発する過程で、培養された脳を用いることにより、薬剤が精神に及ぼす影響をより簡単で倫理的な実験で調べることができるようになることを期待しているという。
出典:上記ニュース

ということなので、なるほど薬理学教室っぽいですね。

 

オハイオ州立大学の発表

この手のニュースを見るといつも思うのですが、発表ページのリンクを入れて欲しいものです。オハイオ州立大学のページに出ていました。

以前のインフルエンザのニュース『新世代のインフルエンザ検査開発』などはニュースに取り上げられた時点でウェブサイトに出ていませんでした。僕のいる大学でも、この手のニュースは(大手メディアに取り上げられるかは別として)大学のウェブサイト上にも発表されます。このあたり日本の研究機関ももう少し出して欲しいですね。

ヒト脳モデル

記事のタイトルは、

Scientist: Most complete human brain model to date is a ‘brain changer’

​Once licensed, model likely to accelerate study of Alzheimer’s, autism, more

と脳の研究を進めるためのモデル作成ができたよ、という記事で、「脳を培養成功」とはニュアンスが違いました。

これを読むと

  • 山中教授のIPS細胞から作った
  • 5週まで育てるのに15週間かかった
  • 12週相当まで育てるのに成功した
  • アルツハイマー病、パーキンソン病、自閉症のモデル研究に取り掛かっている
  • 分化・培養の方法は秘密で、発明の申請中
  • ベンチャー企業(NeurXstem)は大学のあるコロンバス

と疑問に思ったことが大体書かれていました。

Proprietary(独占)

オハイオ州立大学の発表にかかれていたとおり、作成方法などは「神経細胞に分化させる方法」としかかかれておらずproprietary(独占的)で公表されていません。

調べていると、懸念を表明している人がいました。

They apparently used an organoid-type approach that is apparently being patented and is proprietary, which also makes it hard to evaluate. An important focus seems to be on commercialization:
出典:『Healthy skepticism needed on claim of stem cell-derived human fetal brain』(Knoepfler Lab Stem Cell Blog)

秘密の方法を使って、そのモデルが正しいのかどうかもわからず商業化しているし、正しいのかどうか検証するのもできない。

というようなことです。それ以外にもいろいろ批判されています。正しいかどうかは、数年後にビジネスが成功しているかどうかで分かるかもしれませんが、それだけでは分からないかもしれません・・・。

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